『ピンポン』は原作を大切にしていると同時に、アニメならではの見所も多い。マンガからアニメへとメディアが変換される時に加えられるプラスアルファにも注目してみよう。
- ふじつ・りょうた……
- アニメ評論家。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)など多数。連載に「アニメとテレビの時代」(アニメアニメ!)など。「渋谷アニメランド」(NHKラジオ第一土曜22:15~)パーソナリティ。
◆その1:卓球シーン
まず、なんといっても目を引くのが卓球シーン。「動き」というアニメならではの魅力がもっとも際立つシーンだ。
『ピンポン』スタッフは、制作にあたって卓球について徹底的な取材を行った。プロ卓球選手のプレイも参考として動画撮影し、さまざまな選手の特徴的なプレイを、各キャラクターのポイントポイントに反映させることで、説得力ある卓球シーンを描き出した。これにより、各キャラクターの性格と連動している戦型の違いが、一目で納得できるようになった。説得力のある卓球シーンがドラマを支えているのである。特に今週放送の第4話での試合には注目して欲しい。
また卓球シーンでは、ルールや卓球用品など卓球周辺のディティールも見逃せない。
原作執筆時と現在では、卓球のルールに変更があり、アニメは現在のルールに合わせたプレイ描写になっている。また卓球用品のディティールも2014年の卓球シーンを反映したものになっている。ラケットに貼るラバーやシューズなどへの言及は原作よりも増えており、そのあたりも、卓球シーンをリアルなものにしたいというスタッフのこだわりが反映されている。
◆その2:音楽
そして次に注目したいのが音楽。
『ピンポン』の劇伴を手がけているのは、ソロユニット"agraph"や、LAMAのメンバーなどで活躍中の牛尾憲輔。アニメファンとしても知られる牛尾は、『ピンポン』のためにと、オーダーよりもはるかに多い50曲以上を作曲した。第3話のインターハイ予選が始まる時にかかる曲は、ピンポンの跳ねるラリーの音から始まる曲を作ってみたいという牛尾のアイデアから生まれたもの。その曲を聞いた湯浅監督が、インターハイ予選への助走を音楽シーンに使うことを思い付いて、第3話が出来上がった。音楽と映像のインタラクションが作品を大いに盛り上げているのである。
また試合のシーンの音楽でも斬新な方法が試みられている。牛尾は同じビートで暗くハードな曲から明朗な曲までさまざまなトーンの音楽を作曲し、各曲の音源をトラックごとにばらばらの状態でスタッフに渡した。これにより複数の曲の要素をミックスして、その試合の展開に合わせた曲を作り出すことができるようになっている。
◆その3:原作では描かれなかったキャラクターの背景
さらに、『ピンポン』ファンならば絶対に見逃せないのが、原作・松本大洋と監督・湯浅政明のコミュニケーションによって生まれた各キャラクターのバックストーリー。
この二人が、『ピンポン』をアニメ化するにあたって多くの意見を交換した。原作執筆時に考えてはいたが、実際に執筆までに至らなかった設定を話したところ、それをおもしろいと思った湯浅監督がアニメに反映した設定がアニメには多くあるという。
すでに放映された話数ではチャイナの過去が描かれた。そして、これから特にバックストーリーが深まってその存在にぐっと重みが増すのがドラゴンだ。海王の理事長やコーチの娘・ユリエなどの新キャラクターが登場し、ドラゴンの背負ったものの大きさを際だてる。もちろん理事長やユリエのキャラクター原案は、松本大洋が描き下ろしている。
アニメ『ピンポン』ならではの魅力の部分に注目すると、放送がさらに楽しくなるはずだ。